2011年7月26日開催 Web広告研究会セミナーレポート 積極的にソーシャルメディアに取り組むことで見えなかったマーケティングが見えてくる(2) イベント報告
- 掲載日:2011年8月31日(水)
【2011年度 第5回月例セミナーレポート 第二部】
積極的にソーシャルメディアに取り組むことで
見えなかったマーケティングが見えてくる
デル株式会社
コンシューマ&SMS事業部
オンラインマーケティングマネージャー
千歳 敬雄氏
第2部に登壇したデル株式会社 コンシューマ&SMB事業部 オンラインマーケティングマネージャーの千歳敬雄氏は、「Social Media Marketingに取り組む意義と現実 - 企業で使う側の観点 -」と題した講演を行い、デルのソーシャルメディア全般の考え方と取り組み方、事例などを紹介した。
TwitterやFacebookの利用が加速していく中で、ソーシャルメディアについて「企業が主役ではなく、個々のユーザー(生活者)が主役ということが多くの定義で共通のものとなっている」と話す千歳氏は、「参加自由」「ICTによる情報の拡散」「UGC(User Generated Content)の生成、支援、そして交換」「ブロードキャストモデルからの転換」「会話に基づいた複数対複数の関係性の実現」をソーシャルメディアの要素としてあげている。
ソーシャルメディアをマーケティングの観点で掘り下げて「消費」について考えていくと、「消費」とはモノの使用や所有または権威付けや機能ではなく、コミュニケーションと交換のシステムとして絶えず発せられ、受け取られ、再生される記号である、と千歳氏は説明する。つまり、消費は「言語活動の1つ」ととらえることができるというのだ。より実際的には当事者間における価値の交換が消費であると説く千歳氏は、第一部のメディア接触状況の取材ビデオを引き合いに出し、「彼女達は“価値の交換が消費である”といったことを考えながら行動しているわけではないが、自分が見たものや感じたことを情報やコンテンツとして世の中に発信している。ものすごい数の情報が発信されている中で、単にモノを買うとか持つといったことだけでは消費を説明できなくなっている」と話した。そのうえで、消費としての価値の交換は、経済交換と象徴交換の2つがあり、これからのマーケティング領域は、象徴交換をいかに取り入れていくかが課題だとしている。
マーケティング的観点での解読
企業活動の視点からソーシャルメディアの持つ特性を整理すると、メディアとしてはコントローラブルではなく、拡散し、粘着性(コメントが付く・付かないなど)の高低があり、弱い紐帯(昔の友人など)の影響力が大きくなることもあり、企業自身も単なる参加者である、ということになる。また、協働作業的空間を念頭に置いたマーケティン施策が必要であるとし、コラボレーションやインタラクションを生むための共感作りとコンセンサス作りが鍵となり、ナレッジシェアリングや集団的知性の形成や、刺激・反応の可視化が必要であると説明している。
デルでは、従来から購買に近い部分のマーケティングに力を入れており、コンバージョン率やShare of Wallet(顧客内シェア)と言われる部分に注力してきた。しかし、Listening→Engagement→Actionという3つのマーケティング階層の上流であるListeningの部分にも注力する必要があると感じ、モニタリングやリスニングに投資し始めたと千歳氏は説明する。また、製品買い替えサイクルの長いコンピュータという商材を扱っているため、興味や好感を持ってもらってもすぐには購買につながらないことも多く、Engagementも非常に重要になると言う。デルでは、そのEngagementのためにソーシャルメディアを使っていると言うのだ。そこではConversationとInteractionが重要なポイントで、いかにデルに関心を持って時間を使ったか(Share of Time)が指針となる。これから購入する人はもちろん、購入した人に次回もデル製品に興味を持ってもらうために、自社メディアやペイドメディアとともにソーシャルメディア(Facebookなど)を使い、一貫性のあるマーケティング活動を行うことでさまざまなユーザーをカバーすることを意識しているという。
デルでは、ソーシャルメディアに注力するにあたって情報の質に注目し、流動性の高いもの(Flow)と保存性の高いもの(Stock)に分けて考えている。たとえば、流動性の高いTwitterでは速報性の高い情報を流したりDMでのサポートを行ったりし、保存性の高いDirect 2 DELL(ブログ)などのサービスも用意している。Facebookは、その中間にあたり、バランスが良いから最も注力しているメディアだと千歳氏は説明する。また、直近ではYahoo!知恵袋の活用を開始し、ユーザーのコンピュータへの疑問や質問にも積極的に答えるようにしているとのことだ。
企業が直面するソーシャルメディアの課題
続いて、千歳氏は、自身が講演などを行った際によく聞かれる質問としてソーシャルメディアに取り組むときに直面する課題をあげ、「誰がやる?」「どこでやる?」「モニタリングの方法」「成果物」の4つの視点で以下のように解説していく。
ソーシャルメディアマーケティングに取り組むときに直面する課題
「成果物」については、KPIはKey Performance Indicatorの略であるため、目的に対して適切な指針が必要であると説明している。デルでは、ソーシャルメディアにおけるKPIのフェーズをReach、Performance、Actionの3段階に分け、それぞれ認識されるか、エンゲージメントがあるか、ロイヤリティを引き出せるか、がキーとなるという。それに基づいて、たとえばReachならばファンやフォロワーの数、閲覧されている時間、対話の有無やメッセージのリーチなどを指針として、認識されているかどうかを測っていると千歳氏は説明した。
デルのソーシャルメディアへの取り組みをまとめた千歳氏は、最後に事例としてFacebookでのユーザーとのやり取りを紹介した。非常に細かな質問をしてくるユーザーに対して、懇切丁寧に回答してコミュニケーションを深めていくことで、そのユーザーはデルに対して良い印象を抱くようになり、根拠のない他のユーザーの批判に対してフォローのコメントをしてもらえるような関係にまでなったという。千歳氏は、「このユーザーの(他のユーザーの批判に対するフォロー)コメントを見たときは、思わず胸が熱くなった。ソーシャルメディアは良いものだと思ったとともに、地道なコミュニケーションが重要であることを肌で感じた」と話し、「これらのコメントは多くの人の目に触れているということを考えれば、非常に重い。ソーシャルメディアは個々のお客様とのコミュニケーションを取る非常にいい道具で、恐れずに積極的に取り組んで、企業にとっても今まで知らなかったマーケットのインサイトを知るよい機会になると思う」と話し、講演をまとめた。
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