2011年9月14日開催 Web広告研究会 第24回WABフォーラムレポート 第二部「ブランド・コミュニティの7つの神話と現実から見る ソーシャルメディアの神話と現実」(1) イベント報告
- 掲載日:2011年10月13日(木)
【第24回WABフォーラムレポート第二部(1)】
ブランド・コミュニティの7つの神話と現実から見る
ソーシャルメディアの神話と現実
フォーラム後半、第二部パネルディスカッションは「ソーシャルメディアの神話と現実」と題し、サントリーホールディングス株式会社の坂井康文氏をモデレータに、株式会社ニューバランスジャパンの鈴木健氏、パナソニック株式会社の工藤里衣氏、グレートワークス株式会社の鈴木曜氏がパネリストとして招かれた。なお、グレートワークスの鈴木曜氏は、以前は富士重工業株式会社のスバル国内営業本部に在籍しており、2011年2月の第23回WABフォーラムでも自動車業界の宣伝部の立場からパネリストとして参加していた。今回のディスカッションでは、スバルの事例も交えながら議論を交わしていた。
各参加者の自己紹介を行った後に始められた今回のパネルディスカッションは、2010年10月ハーバードビジネスレビューに掲載された「ブランド・コミュニティ:7つの神話と現実」という論文を題材に、ソーシャルメディアの神話と現実に当てはめて進められた。
「ブランド・コミュニティ:7つの神話と現実」を題材にディスカッションが進められた
神話:ブランド・コミュニティは、企業のために存在する
VS
現実:ブランド・コミュニティは、そこに集まる人たちのために存在する
株式会社ニューバランスジャパン
マーケティング部長
鈴木 健氏
まず、鈴木健氏がニューバランスジャパンの競合他社に在籍していた前職での経験を話す。mixiで女性のフィットネスユーザーのためのコミュニティを立ち上げ、順調に登録が増えていたのに、ある日を境にどんどん登録者が減っていったというのだ。「最初はブランド名を出しておらず、途中でブランド名や広告を出すようにしたら、急激に登録者が減っていった。我々としてはブランド力が強いと思っていたが、感心(インタレスト)で集まってきた登録者にとっては、急に企業の顔が見えたため裏切られたと感じたのだろう。結局、そのコミュニティはやめることになってしまった」
パナソニック株式会社
コーポレートコミュニケーション部門
コンテンツ企画センター
主事
工藤 里衣氏
工藤氏は、「言葉で書かれるとその通りだと思うが、実際には神話にすがり付いてしまい、ソーシャルメディアで何かをやろうとすると、まずブランドという看板のことを考えてしまう」と話した。坂井氏も「企業としては、看板を掲げないわけにはいかない」と話すが、ブランドや企業の看板を出さずに何かをやることが許されるようになるのはずっと先の話というのが現実で、大きなジレンマとなっているようだ。
グレートワークス株式会社
シニア・ストラテジック・プランナ
鈴木 曜氏(元、富士重工業株式会社)
一方で、鈴木曜氏は「ブランド・コミュニティは、企業に対してよい方向に働くという面も大きい」と話した。「スバルはブランドにファンがついてきているありがたい企業で、自分よりも自動車に詳しいファンの方がたくさんいる。企業がピンチのときに助けてくれたり、情報を提供してくれる人もいた。“企業のため”ではないが、“企業とともに”存在するものであってほしいと、コミュニティを作っているときには考えていた。広告などを出したりはしないが、ブランドがここにいるという空間を作ろうとしていた」と鈴木曜氏は続け、それに対して坂井氏は「対比すると神話と現実という書き方になるが、実際には企業のためにも人々のためにも存在するという両方の感覚がある」とまとめた。
ここで話は、ブランド・コミュニティにおいて人々の意見を優先するのか、企業の利益を優先するのかという話題に移っていく。企業活動として利益を生み出すことを前提としながらも、コミュニティ自体は利益を生み出す仕組みではない。しかし一方で、顧客を大切にしなければならないなかで、鈴木氏は多くのサイトを手がけているサントリーではどのように予算を捻出し、KPIをどう捉えているかを坂井氏に質問している。
サントリーホールディングス株式会社
広報 Eコミュニケーショングループ
課長
坂井 康文氏
坂井氏は「私はモデレータなんですけど」と微笑みながら、「社内でも大きな議論があった。個々のKPIは設定しつつも、大きな意味でのゴールを“自社メディアとソーシャルメディアを組み合わせて消費者接点を大きくしていく”と定義付けている。そのうえで数値を見るときに、“いいね!”の数や会員数で割り切って数字を見ていかないと、なかなかうまくいかない」と話した。また、鈴木曜氏が「それは神話のほうに近い意見となるのではないか」とたずねると、坂井氏は「神話でもあるが、行為自体は集まる人々のためにやっている。やはり、神話と現実を対立する軸と考えると、難しいキーワードとなると思う」と答えた。
神話:ブランドを確立すれば、コミュニティがついてくる
VS
現実:コミュニティづくりに工夫を凝らすことで、ブランドが強化される
まず、工藤氏は「このテーマは日々直面して、自分でも悩んでいる」と話す。ブランドの力で人が集まるわけではなく、逆にブランドの力が低くても、ユニークで関心を引くことができれば、結果的に認知されて評価が高くなることもある。「前のテーマのように、看板を先に掲げるというやり方をしている場合は、すごく難しい」と話を続ける工藤氏は、「パナソニックで1つのコミュニティを作るべきなのか、ネタごとに分けてやるべきなのか、ということに答えを見出せない」と話した。統合されているほうがブランドを強く見せやすいが、顧客に喜んでもらう先にブランドとの絆が体験できるようにするには、細かな興味ごとにコミュニティを作ったほうが理想的であるというのだ。
さらに工藤氏は、「ソーシャルメディアのページやアカウントの持ち方とブランド強化の施策をどうするべきなのかというのは悩ましい。各国で商品ごとの小さなコミュニティを作ったり、ブランドを重視して大きなコミュニティを作ったりしているのが現状。一方で、パナソニックの名前でFacebookページを作り、テーマをタブやキャンペーンなどで細かく区切っているという複合型で運用している国もある。理想に近い形だとは思うが、それをそのまま日本やグローバル全体で行おうとしても、商品範囲が広いため非常に難しい」と、グローバル展開の課題についても言及した。
「やはり、ブランドありきで話をするのは危険だと思う」と話す鈴木曜氏は、「ライフスタイルで切って話をし、その結果、最終的にブランドを好きになってもらえることが理想的ではあるが、自分の場合はスバルというブランドとお客様に甘えてしまっていたので、このテーマを見ると、まだまだダメだなと感じる」と話を続けた。また「これは、ハーバードビジネスレビューにもある、プール型やWeb型などのコミュニティの形態ごとに大きく違うと考えていて、強固なものであればライフスタイルだけでもよいと思う。どう設計していくかは大事だが、そこにブランドが必ずしも必要だとは言えない」と鈴木曜氏は話し、ブランド名を投下したからといって人が集まるわけではなく、ライフスタイルに人が集まるという考えを示した。
鈴木健氏は、「企業側としては、コミュニティを1つの消費者のグループと考えて基盤を作っていく必要がある。しかし、バラバラな関係性の人が集まったグループをどうやっていくかは難しい。先ほど鈴木曜氏が言ったように、ハーバードビジネスレビューには、プール型、ハブ型、Web型の3つのコミュニティ形態があり、その3つをうまくつなげるという考え方が紹介されている。テーマには“工夫”と簡単に書かれているが、たとえばパナソニックのように別々のブランド・コミュニティがあるのなら、企業側が共通の話題を提供してコミュニティをつなげるというような視点も必要だと思う」と説明した。
また、坂井氏もサントリーの例を挙げ、「酒類、飲料水、健康食品、石鹸などのさまざまなブランドがあるが、Facebookページにはいろんなことを投稿するようにしている。お酒に興味がなくてもお茶には興味がある人やハイボールが大好きな人など、さまざまな反応を期待できる。さまざまな投稿をすることによって、トータルで広くサントリーのブランドにつなげておくという方法は我々の事業やブランドでは必要なことだと思っている。しかし、他社の事例を見ると強固な1つのブランドで1つのコミュニティという例が多く、我々のようなマルチブランドで動かしている例はないので、これがゴールだという確信はない」と話した。
坂井氏の発言を受けて鈴木曜氏は、「自動車業界も同じで、軽自動車に乗っている人のライフスタイルと高級車に乗っている人のライフスタイルはまったく異なり、コミュニティも違う。しかし、レガシィに乗っている人が2台目で軽自動車を買われることもある。そこをうまく横串でつなげていくことがブランドの確立だと思っていて、ストーリーを立ててつなげていくことが必要だと考えている」と話す一方、鈴木健氏に「たとえば“走る”というライフスタイルでコミュニティを立ち上げたときに、自社の商品まで誘導するのは難しいのではないか」とたずねる。これに対して鈴木健氏は、「ランニングが流行っていなかったときは、さまざまなブランドが啓蒙のためにランニングを切り口にしたコミュニティやランニングクラブを立ち上げていた。今はこういったコミュニティは珍しくなく、ニューバランスがランニングコミュニティをやっていると言ってもまったく目立たない。もともとやっていたランニングコミュニティをやめてしまった理由もそこにあって、ブランド化されたランニングコミュニティが必要ではなくなっている。さまざまなブランドを使っているランナーに何かを提供するなら、また違ったコミュニティ戦略が必要だと現在感じているところで、ステージを変える必要があると思う」と答えた。
また、鈴木健氏は、鈴木曜氏が手がけた「SUBARU x GAINAX Animation Project」で、YouTubeにWebアニメを毎週展開していくという手法を例に挙げ、「新しいストーリーを提供することでつながらなかった消費者をつなげている」と評している。
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