2010年4月27日開催 Web広告研究会4月月例セミナーレポート(2) 日本のクラウド全世界で最もコモディティ化が進んだ携帯電話 イベント報告
- 掲載日:2010年5月27日(木)
(前ページ)2010年4月27日月例セミナー第一部
第二部 日本のクラウド
全世界で最もコモディティ化が進んだ携帯電話
第二部に登壇した早稲田大学の丸山氏は、クラウドの説明の前に、ハードウェアの進化がIT技術の変化をもたらしており、高集積化や高機能化によって、マルチコアのCPUが生まれていると話した。また、高集積化が進む一方で、ハードウェアの価格は低下していること、コモディティ化が進んでいることを示し、現在のクラウド普及を支える技術の背景について説明していった。
早稲田大学大学院
情報システム研究科
客員教授
丸山 不二夫氏
「世界で最もコモディティ化が進んだのは、自動車でも自転車でも時計でもなく、携帯電話である」と話す丸山氏は、今年中に携帯電話の加入数が50億件に届くことを示し、1975年に500万ドルの価格であったスーパーコンピュータ「CRAY-1」よりも高性能な携帯電話を、200ドル以下で50億人が持てるようになったと解説した。また、ハードディスクやメモリなどの価格を10年前と比較した上で、10年前は1億円以上したシステムよりも高性能なPCを10万円程度で購入できることも説明し、性能の向上とともに価格の低下がIT技術の普及を促進していることを説明。そのほかにもさまざまな例を示しながら、ハードウェアの高性能化と低価格化がいかに早いサイクルになっているかを説明した。
50億人が10年前のスーパーコンピュータ以上の端末を持つ時代に
このような高性能化と低価格化は、前述のような携帯電話の普及に影響を与えているが、一方でクラウド・コンピューティングの実現にも大きな影響を与えていると、丸山氏は説明を続けた。マイクロソフトやグーグルのクラウドデータセンターを例にあげ、高集積化と省スペース性で1,500台以上のサーバーを1つのコンテナに詰め込むことが実現できていることなども示した。これらのクラウドデータセンターでコンテナが使われていることの利点を丸山氏は、コンテナごとに冷却などの空調が行え、ファシリティを気にせずにスペースとネットワークさえあればコンテナを置いてデータセンターにできることだと説明した。
コンテナを利用したマイクロソフトの次世代データセンター構想
「IT技術の進化にはインターネットの影響が非常に大きく、その影響力はまだ続く」と話す丸山氏は、エンタープライズ・システムで使われてきた技術の多くがネットワークを念頭においていることを説明する。また、ネットワーク上に個人が登場することによって情報が増大することになり、いかに効率的にその情報にアクセスするかを考えたのがWebの第一世代、個人が情報を共有してコミュニケーションを行うためにソーシャルメディアを利用し始めたのがWebの第二世代と位置づけた。その上で、2004年頃に登場してきたWeb 2.0という概念では技術の中核や実体は確立されていなかったが、2006年に開催された「Web 2.0 Summit」でクラウドという概念が登場してきたことを説明した。2004年に“予感”として生まれたWeb 2.0の“実体”が、“クラウド”という形で2006年に生まれたというわけだ。
クラウドを考える上でキーとなり、クラウドを推進するための力となったのは、増大し続けるWebの規模、すなわち“Webスケール”という概念だ。個人と個人がコミュニケーションと情報共有を行うことによって膨大な量の情報があふれ、Webスケールは非常に大きなものとなっている。これらの情報を処理するためには、クラウドを支えるサーバーの巨大化が必要となり、情報共有する個人が増えればクラウドが大きくなってくるのである。
今後、モバイルブロードバンド化が進めば、クラウドの重要性も高まってくることになる。全世界で50億台あるといわれる携帯電話のうち、ネットワーク通信できる機器は現時点では1/3程度だが、ここ10年でほとんどの携帯電話がインターネットにつながることも予測されている。「これらのニーズを満たすためにも、クラウドの需要はますます伸びていくだろう」と丸山氏は話した。
コミュニケーションと情報共有が新たなネットワークメディアを生む
続いて、クラウドの歴史を時系列で丸山氏は説明した。クラウドは、その概念が生まれる以前の2004年にグーグルが上場を期にインフラを整備したことで初めて成立している。2004年時点では、一般的にクラウドという概念を意識することはなかったが、2006年には「Amazon EC2/S3」がエンタープライズ向けにサービスを提供し始め、クラウドという概念が定着し始める。その後2008年には、Eコマースの派生から生まれたAmazon EC2/S3の時代からさらに進化し、最初から自立したエンタープライズ向けのクラウドとして「Microsoft Azure」が登場している。
携帯電話からのインターネットへのアクセスが急増し、今後も増え続け、トラフィックが爆発的に増大しようとしていることを丸山氏は「世界のメディア普及率」というグラフで説明していく。このグラフによれば、2009年時点で全世界の67%の人が携帯電話を持っているがインターネットの利用者は25%に留まっており、この67%と25%のギャップが潜在的なインターネット利用者と考えられ、そのギャップを埋めるのがクラウド・デバイスである、と丸山氏は説明した。これらモバイルからのインターネットアクセスは2010年以降、急速に伸びていき、5年以内にデスクトップPCからのアクセスを追い越すことが予測される。実際に、iPhoneの登場によってAT&Tではトラフィックが3年間で50倍になり、mixiも携帯電話からのアクセスが着実に増えており、2009年の第一四半期の時点でアクセス全体のうち65%が携帯電話からとなっている。
「世界のメディア普及率1998-2009」
携帯電話は4人に3人が所有しており最もコモディティ化が進んでいる
クラウドとクラウド・デバイスという新たなネットワークメディアへの急速な変化に対して、アップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾンといったクラウドプレイヤーは、さまざまな対応を行っている。各社は、クラウドのインフラ、クラウド・デバイス、クラウド・デバイス向けのマーケット/サービスの3つの点でネットワークメディア産業へとシフトしていることを、その動きを例示しながら丸山氏は説明していった。
音楽市場においてもオンライン販売が進み、「Amazon Kindle」「Barnes & Noble nook」「Apple iPad」といった書籍の電子化の動きも活発化してきた。20世紀初頭に電力ネットワークをベースにさまざまなメディアが登場してきたマルチメディアの時代から、ラジオやテレビなどのネットワークメディアがマスメディアとして発展していき、21世紀初頭からインターネット上でさまざまなメディアが統合されてきたユニメディアの時代を経て、「21世紀はパーソナルメディアの時代となる」と丸山氏は位置づけた。
IT技術の革新はクラウドとクラウド・デバイスを中軸として今後もさらに活性化し、コミュニケーションと情報共有への強い志向によって促進されていく。「携帯電話がこれほど普及したのも、コミュニケーションツールとして非常に魅力的なツールであったためだ」と話す丸山氏は、今後もコミュニケーションと情報共有がIT技術を動かす原動力になるとした。
今後、AndroidやiPhone、KindleやiPadなどのクラウド・デバイスは、新しいコミュニケーションや情報共有の主要な舞台となりうるものだ。巨大なクラウドを中心にしたネットワークに、無数のクラウド・デバイスがあるというイメージを持つことが、これからはじまるクラウドとクラウド・デバイス時代の新しいメディアのありかたを理解するために重要だとして、丸山氏は講演を終えた。
クラウドを中心に無数のデバイスがネットワーク化される
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