Digital Marketing Institute | デジタルマーケティング研究機構

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「“キャッシュレス”と“ネットワーク化”が鍵、ライフネット生命保険 出口氏が語る地域おこしに必要な発想」2013年10月4日開催 第五回東北セミナーレポート(3) イベント報告

  • 掲載日:2013年12月9日(月)

“キャッシュレス”と“ネットワーク化”が鍵、ライフネット生命保険 出口氏が語る地域おこしに必要な発想

第五回東北セミボラ、最後の講演となる第三部では「地域おこしを考える」をテーマにライフネット生命保険 代表取締役会長兼CEOの出口 治明氏が登壇。ライフネット生命保険の起業以前に地域おこしについて学び、全国講演も行う出口氏が、地域おこしの施策をどのような視点で考えるべきか、海外から学ぶべき点は何か、説明していった。

複数軸の視点で周囲を理解することで視野が開ける

まず出口氏は、どのような講演でも最初に説明するという「人間が働くということは」をテーマに語った。


ライフネット生命保険株式会社
代表取締役会長兼CEO
出口 治明氏

「周囲の世界をどのように理解し、どこが嫌で、どこを変えたいと思い、自分はそのために何ができるかを問い続けることが、人間が生きる意味であり、働く意味である」(出口氏)

人間は、働いている職場や住んでいる地域を理解して生活を営んでいるが、100%満足して暮らしている人はいない。どこかに不満や改善点があるということは、すべての人が自分の住んでいる世界を変えたい、経営したいと考えていることになり、世界経営計画のサブシステムとなっているというのだ。

「周囲を理解することが出発点となるが、人間の脳は好き嫌いが激しいので、素直に周囲を見ることができない。見たいものしか見ない」と続ける出口氏は、たとえば企業であれば、だれがどのような理念で創業して成長してきたかという縦軸と、他の企業や競合企業がどのような軌跡をたどってきたかという横軸の両方で考えることで、さまざまな視野を得られると語る。復興に関しても、昔の人が災害に遭ったときにどのように復興してきたのか、また海外でどのような災害復興が行われてきたかを考えることで、大きく視野が開けてくる。

さらに出口氏は、「国語ではなく、算数で考える癖をつけること」が重要だと話す。特にビジネスでは「数字」「ファクト」「ロジック」が重要で、たとえばライフネット生命保険では、テレビCMを会長の出口氏が気に入ったからといって、どんどん流すような経営はしない。データに基づいて放映数を判断するため、テレビCMを同時ではなく、たとえば、仙台と東京のどちらか一方だけ流し、放映期間中の契約数の伸びの差をテレビCMの効果として数値化するのだ。

大都市は若者を奪う存在ではない、大きなマーケットと捉える

これらの説明を前提に地域おこしを考えたいと話す出口氏は、「ビジネスは非常に簡単で、どのような商売でも地域おこしでも、“件数×単価”だと考えればよい」と説明する。ライフネット生命保険を起業する前に、法政大学の黒川和美教授の下で一年間、地域おこしを学んだという出口氏は、「人が増えることが地域おこしの最大の基本」だと話す。

人が集まれば、食料や水、生活用品などの物が集まり、決済のための金が集まってくる。しかし、「ヒト→モノ→カネ」が基本だが、人は必ずしも定住人口である必要はない。また、地域おこしのために「若くて元気な人を集める」という発想になりがちだが、日本の現状を考えれば、お金を持っているのはお年寄りであるため、「若い人である必要はないかもしれない」と出口氏は説明する。

大都市近郊の町などでは、大都市に若い人が行ってしまい、町に人が残らないともいわれるが、出口氏は、「その町の売りとなる物(蛍や白鳥、自然など)を見つけ、バスをチャーターして、売りとなる物を中心とした合コンを行ってみればよい」と話す。近郊の大都市に人を吸い取られると考えるのではなく、近郊に多くの人口を抱えたマーケットがあると考える。実際にその地域に人が住んでいるか、住んでいないかに関係なく、「多くの人に来てもらい、その滞在時間を長くする」ことが地域おこしの基本になるのだ。

また、「滞在時間を長くするためには、便利にしてはいけない。便利にすると、あっという間に見て帰ってしまう」と出口氏は述べ、たとえば町の中は自動車の通行を許可せず、滞在時間を長くすることで飲み物や食事を提供しやすくし、現金決済をやめてキャッシュレスにし、購買しやすくすることで「件数×単価」を上げられると説明する。

グローバル時代における誘致の考え方

「米国では、ある大学内に建設された高層タワーが最も高級な老人ホームになっている。なぜだかわかりますか」(出口氏)

地域おこしのヒントとして、出口氏は米国の事例を示す。この老人ホームは、大学のどの講義でも自由に受講できることで人気となっているが、理由はそれだけではない。裕福な高齢者は勉強意欲が高いというニーズもあるが、ただ受講するだけでなく、ときには経営学の講義などで、自身の経営者としての経験を伝えるのだ。学生は現場の経験者から学ぶことができ、高齢者には若い人と議論を行ったり、自分の経験を教えたりする楽しみが生まれる。

人を集めるための政策は日本でも行われているが、日本では工場やコンタクトセンターを誘致し、数々の失敗を繰り返しているため、工場誘致という幻想は捨てるべきだと、出口氏は指摘する。

「グローバルな時代となったなかで、コストが格段に安い国に工場やコンタクトセンターが流れていっており、このような政策が長続きしないことはだれにでもわかる。これらの選択肢はないものと考えて、人を増やす工夫をしていく必要がある」(出口氏)

地域全体をネットワーク化し、キャッシュレスと言語フリーを実現する

定住人口がすべてではない、と考えたときにでてくる政策の1つが「観光」だ。日本や海外の他の地域から人を集めるには、観光を興すことが重要となる。出口氏は、ほぼ同時期に巡礼地として注目された、日本の熊野古道(くまのこどう)とスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラを比較して説明を続ける。

両方とも世界遺産となり、道としての距離もほぼ同じである2つの観光地だが、観光客の数ではサンティアゴ・デ・コンポステーラが上回る。その理由は利便性の違いにあると出口氏は話す。

「サンティアゴ・デ・コンポステーラは、のどが渇いたり、お腹がすいたりするような場所にステーションが設置され、言葉がわからなくても絵で買いたいものがわかる。キャッシュディスペンサーも用意しているため、道中お金や飲み物、食料を持つ必要もない」というのだ。また、格安の宿泊設備も完備されているため、長い時間をかけてのんびりと数百kmの道を楽しめるという。

「手ぶらで楽ができなければ、人は来ない」と話す出口氏は、さらにオーストラリアのケアンズについても説明する。ケアンズでは、ホテルにチェックインすれば、観光地域全体がネットワーク化されているため、後はキャッシュレスで遊べるという。観光地への行き帰りの交通手段やチケットを宿泊施設が手配してくれ、行き先の飲食や土産品の決済もホテルのキーを見せてサインするだけでいいという。

「このような発想は東北の温泉街でも実現できるはず」と話す出口氏は、新幹線の駅などに宿ごとにバスが迎えに来るのではなく、PCなどで情報を共有して温泉街の宿を回るように1台のバスを使えばよく、余ったバスを利用して地域ごとの観光コースを作ればよいと提案する。

また、ケアンズでは宿泊期間の途中でホテルをチェンジできるが、これも真似できると話す出口氏は、「観光客がもっとよい宿を見つけたときに差額だけで宿を変えられれば、変えられてしまった宿には損失になるが、地域全体としては得になるはず」と説明する。

地域全体で観光地などの情報を共有化・ネットワーク化し、地域全体をディズニーランドのようにすることが重要だというのだ。このように、キャッシュレスでわがままに遊べることが地域をおこすことになると述べる出口氏は、前述のように案内を絵などにして言語フリーにすることも海外から人を呼び込むために重要だと話す。

また「すべてに星をつける」ことも必要だと出口氏は説明する。たとえば、海外旅行で宿泊先から食事に行く際には、その街のレストランなどに星がつけられているため、言葉がわからなくても予算や好みで店を選べる。ホテルの従業員に聞けば、お勧めの店を教えてくれるが、日本の観光地では、レストランが書かれた地図が渡されるだけで、味や値段の評価がわからず、「どこもよい」と答えられるだけだ。

「日本の観光業は遅れているが、海外で流行している観光地は難しいことをやっているわけではなく、当たり前のことをやっているだけ」と出口氏は話す。

原産地証明制度で競争し、高品質・高価格を目指す

「どのような場所でもキーとなるのは食事」と話を続ける出口氏は、海外では原産地証明制度を徹底的にやっているところが多い、と説明する。



たとえば、仙台では牛たんが名産となっているが、牛たんの基準や提供方法などを細かく決めて制度を作るといったことだ。制度に則って牛たんを提供している店を認定し、希少価値を高めれば、その店は牛たんの提供価格を上げることができる。他の店も認定を受けられるように努力するようになり、品質を底上げできる。

また、「東京に現物を出さない」ということも重要だ。地方の菓子店が「東京の有名デパートに出店できると喜んでいたのを目にしたことがある」という出口氏だが、東京で地方と同じ価格で売れば損をすることになり、有名デパートに認められるような味であれば、意地でも出店せずに食べに来いというのが世界の発想だと説明する。

東京に出せば宣伝になるという意見もあるが、東京で楽をして食べられれば地域に人が来ることもなくなるため、原産地証明制度を厳しくし、高品質・高価格を目指し競争することが長い目で地域を強くするために重要なのだ。一方、ネットショップは原産地が直接販売できるため、展開すべきだとも話された。

世界から人を集め、お金を落としてもらえる循環を作り上げる

若くて優秀な人材が少ないということも地域の課題となっているが、出口氏は「地域おこしの担い手は公募で集めればよい」と話す。ドバイは、何もない砂漠から大きな空港を作り、一大観光地として成長しているが、そこで働くフランス料理のシェフは基本的に公募によって複数年契約で集められているという。

「地域の担い手も定住してもらう必要はなく、能力のある人にいい仕事をしてもらい、次の担い手にバトンタッチして循環すればよい」と話す出口氏は、広く世界から人を集めるという発想が重要だと説明する。消費者だけでなく、供給側も人をどこからどのように集めるかが重要で、定住者である必要はないというのだ。また、公募者が地域に根付いて定住するケースも少なくないという。

「地域おこしも、縦横の思考で世界から学ぶことは多数ある。そこでのキーは、多くの人に集まってもらい、滞在時間を長くし、できるだけキャッシュレスでわがまま放題に、自由度が高く、お金を落としてもらえるという循環を作り上げること。その循環を作り上げる担い手も定住者である必要はなく、3~5年住んでもらえる優秀な人でよいという発想が大事」(出口氏)

個人的にも、多くの観光地をまわってきたという出口氏は、講演の最後「どんな地域でも興るためには人が集まってお金が落ちなければならない、という当たり前の話をしただけだが、少しでも参考になれば幸せだと感じる」と話し、講演をまとめた。講演後も質疑応答が行われ、時間いっぱいまで地域おこしについての議論が交わされた。


2013年10月4日第五回東北セミナーレポート(1)
2013年10月4日第五回東北セミナーレポート(2)

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